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匂宮、浮舟の家に夫を装い侵入


源氏物語・浮舟より

こちらのPDFをまずご覧ください。

 

 いととう寝入りぬるけしきを見給ひて、またせむやうもなければ、忍びやかにこの格子をたたき給ふ。右近聞きつけて「誰そ」と言ふ。声づくり給へば、あてなるしはぶきと聞き知りて、「殿のおはしたるにや」と思ひて、起きて出でたり。

尊敬語が使われているのが匂宮。使われていないのが女房右近。格子を叩く=ノックって昔からあったのか。ノックだけでなく「しはぶき=ゴホン」「声つくり」している。「殿」は夫の薫だろう。女房右近が夫の帰宅と思った。

 「まづ、これ開けよ」とのたまへば「あやしう。おぼえなきほどにもはべるかな。夜はいたう更けはべりぬらむものを」と言ふ。「ものへ渡り給ふべかなりと仲信が言ひつれば、驚かれつるままに出で立ちて。いとこそわりなかりつれ。まづ開けよ」とのたまふ声、いとようまねび似せ給ひて、忍びたれば、思ひも寄らず、かい放つ。

右近が夜更けの夫の帰宅を怪しむが、訳を説明して鍵を開けさせるくだり。「まねび似せ」匂宮が薫の真似をしている。

 「道にていとわりなく恐ろしきことのありつれば、あやしき姿になりてなむ。火暗うなせ」とのたまへば「あな、いみじ」とあわてまどひて、火は取りやりつ。「我、人に見すなよ。来たりとて、人驚かすな」と、いとらうらうじき御心にて、もとよりもほのかに似たる御声を、ただかの御けはひにまねびて入り給ふ。

火が明るいとまずいので消させる口実を作る。「けはひ」も「まねび」て侵入成功。

 「ゆゆしきことのさまとのたまひつる、いかなる御姿ならむ」といとほしくて、我も隠ろへて見たてまつる。いと細やかになよなよと装束きて、香の香うばしきことも劣らず。近う寄りて、御衣ども脱ぎ、馴れ顔にうち臥し給へれば、「例の御座にこそ」など言へど、ものものたまはず。御衾参りて、寝つる人びと起こして、すこし退きて皆寝ぬ。

「馴れ顔」で「ものものたまはず」臥す。女房たちとのやりとり。

 御供の人など、例の、ここには知らぬならひにて「あはれなる、夜のおはしましざまかな」「かかる御ありさまを、御覧じ知らぬよ」など、さかしらがる人もあれど、「あなかま、給へ。夜声は、ささめくしもぞ、かしかましき」など言ひつつ寝ぬ。

こちらは匂宮のお供の人の描写。

 女君は「あらぬ人なりけり」と思ふに、あさましういみじけれど、声をだにせさせ給はず。いとつつましかりし所にてだにわりなかりし御心なれば、ひたぶるにあさまし。初めよりあらぬ人と知りたらば、いかがいふかひもあるべきを、夢の心地するに、やうやう、その折のつらかりし年月ごろ思ひわたるさまのたまふに、この宮と知りぬ。いよいよ恥づかしく、かの上の御ことなど思ふに、またたけきことなければ、限りなう泣く。宮も、なかなかにて、たはやすく逢ひ見ざらむことなどを思すに、泣き給ふ。

さて、女君(浮舟)がこの男が別人だと気付き「夢の心地」。「つらかりし年月」の話で「匂宮」だとわかる。「かの上」とは世話になっている匂宮の妻。

 夜は、ただ明けに明く。御供の人来て声づくる。右近聞きて参れり。出で給はむ心地もなく、飽かずあはれなるに、またおはしまさむことも難ければ、「京には求め騒がるとも、今日ばかりはかくてあらむ。何事も生ける限りのためこそあれ」。

男は女のところから夜明けとともに退出が平安常識。しかし、情熱的な匂宮は「何事も生きる限りのため」と非常識を通す。

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読解と語句




いととう~
せ+む+やう=せむかた=せむすべ=しよう(がない)=(寝てしまわれてはしょうがないので戸をたたく)
あてなるしはぶき=しはぶき(咳)にも上品な仕方とかあるんですかね。
「殿のおはしたるにや(あらむ)」 に=断定ナリ連用 や=疑問







まづ、これ開けよ
高貴そうな相手だけれど一応「あやしう」くらいは言うのですね。
右近の「あやしう」に対しての答えは「仲信の言葉に驚いたから」立ち聞きしていたのだから前の文脈にあるのだろう。「べかなる=べく+ある+なる(ナルは伝聞推定のようだから、ものへ渡る=どこかへ行くと聞いた)
まねぶ=真似る(=学ぶ)
思いも寄らず=(別人だとは)思いも寄らずに







道にて
わりなし=わけがわからない、無理に、むやみに。追いはぎか何かが出た想定ですかね。いずれにしろ、火を消させ人を近づけない(人驚かすな)ための嘘。(人に見すな、見す=下二段見せるという意の他動詞)
あわてる(あわつ)って平安時代からあった言葉なんだ。ここで、火は遠くへやった。
らうらうじ(労労)=たくみに、洗練されて





































































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