試験に出ない源氏物語

花の宴 朧月夜の物語

朧月夜の学習用PDF  参考 

 

桜。
死んでいたものが、うまれる。春。
一斉に咲く花。それは、驚き。
桜をきっかけに生きる物達の緑の世界となる。

花の宴(うたげ)。
内裏の南の御殿は、
よく晴(は)れて、空(そら)のけしき、鳥(とり)の声(こゑ)も、心地(ここち)よげなり
例によって、宮中の貴族達が一堂に集まる。

役人たちが即興の漢詩を吟ずる。おどおどと読む者。慣れて読む者。しみじみと読む年寄。
源氏は春の鴬(うぐいす)が囀(さへづ)るように舞を舞う。
源氏の声は極楽に住むという鳥の「迦陵頻伽(かりょうびんが)」のようだ。
皆が喝采をするが、弘徽殿の女御だけは、それが気に食わないらしい。
やがて、酒の宴となり、皆、上手下手もなく、乱れて舞い、大声で歌を詠む。
夜更けて、花の宴は終わった。

源氏は酔いに任せて、宮中をしのび歩く。藤壺に通じる扉は鍵がかかっている。
嘆きながらさらに歩く。

弘徽殿(こきでん)の細殿の入り口が開いている。
不用心だ。男女の過ちもこんな事から始まるのだろうか。
だが、ちょっと忍び込んでみよう。

静かだ。みな寝静まっている。
耳を澄ます。

すると、遠くで、若々しい、美しい声が歌っている
機嫌よく鼻歌を口ずさむかわいい女の声が近づいてくる。

  「朧月夜(おぼろづきよ)に似(に)るものぞなき」

源氏はこころを動かした。とっさに女の袖をとらえる。
女は恐ろしく「気味が悪い、何者?。ここに人がいるわ!」。
「どうして、疎ましいものではありませんよ。春の夜更けはすばらしい。♪深き夜のあはれを知る。おぼろけならぬ契りとぞ思ふ。ここに来て良かった。」。
その声で女は知る。
迦陵頻伽の声。この人は光源氏。
先ほどの舞と歌とが私を感動させた。
だが、こんなことは困る。・・・だが、冷たい女に見られたくもない。

やがて、  女、朧月夜と 男、源氏は陥るべきところに陥った。
だが、    女には名前を明かせない事情があった。
名前を聞けないまま、夜は明けてしまった。
ここは、弘徽殿のツボネ。源氏を目の仇にしている弘徽殿の女御も戻ってくるだろう。
早く帰らなくては。
あなたの扇とわたしの扇を交換しよう。とっさに源氏はそう言った。
扇だけを持って、源氏は弘徽殿の局を去った。

気持ちのはっきりした、心の明るい女だった。
あの人はいったい誰だったのだろう。
弘徽殿には、六人の娘がいる。
四番目の娘は頭中将の本妻だが、聞いていたような気の強い女ではないので、別の人だ。
五番目の娘かな。
六番目の娘は帝の側室へはいる予定の方だが、もしそうなら可愛そうなことになる。
どうしたら、あの人が誰だったのかわかるのだろう。

源氏は、寂しく、交換した扇を眺めていた。桜色の扇。かすんだ月が水に映る絵柄。
使い慣らしている。その人を感じる。おぼろづきよ。
読んでくれる当てもないまま、扇に歌を書いてみる
「世(よ)に知(し)らぬ 心地(ここち)こそすれ 有明(ありあけ)の
月(つき)のゆくへを 空(そら)にまがへて 」
あなた、あの朧月夜の歌のかわいらしかった、あなた、いま、月の行方はどこに行ってしまったのか。夜が明けてしまった。あなたも見えなくなってしまった。この世から消えてしまったおぼろづきよ。

その頃、朧月夜も源氏のことを思っていた。物思いをしていた。
名前を明かさなかったのは、理由があった。
彼女、朧月夜には、予定の相手がいたのだ。
それは、姉弘徽殿の女御が決めた婚約。そして、   相手は帝。  彼女は弘徽殿の六番目の娘。

あれから、ひと月。弘徽殿で藤の宴(うたげ)が開かれた。源氏も招待されていた。

今日こそは、この間の女を捜し出したい。
源氏は酔ったふりをする。女達のいる御簾の近くに寄ってゆく。
「(酔って)酒を勧められて困っています。この辺に隠れさせてください」と言ってみる。
「こまりますわ。身分の低いかたではございませんでしょうに」と上品な女の声がする。
これは違う人だ。
少し先の方へ進む。たきしめた香の香りがする。
源氏は歌を歌ってみる「扇をとられて、つらい目を見る」
「変わった人ね」と女の声がする。
これも違う人だ。
いったい、朧月夜はどこにいるのだろう。
また先へ進む。ん?嘆く気配がある。
もしや! とっさに和歌を歌う
「梓弓(あづさゆみ) いるさの山(やま)に 惑(まど)ふかな
ほの見(み)し月(つき)の 影(かげ)や見(み)ゆると 」

 

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